給湯流茶道

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【茶会・ミュージカル レポ】2018婚活侘びミュージカル レポート(取材・文/小村トリコさん)

給湯流茶道 
侘びミュージカル2018 レポート



2018年8月4日と5日の2日間、給湯流茶道のメンバーによる「給湯流侘びミュージカル茶会」が開かれた。2日間参加してきたので、その様子をお伝えしたい。

初日の会場は、千代田区の「3331」。中学校の旧校舎を改修してつくられたアートスペースだ。廊下にはかつての水飲み場が残るなど、建物全体から侘び感が漂っている。今回使用した教室は元は家庭科室だったのだそう。

前半はお茶会パート。
席につくと出てきたのは、なんと紙皿のお茶碗。茶会なのにこんなチープな紙皿で抹茶を飲むの?? ガッカリ感が隠せない中、各テーブルに茶筅が配られて、ご自服(客が自分でお茶をたてるスタイル)で抹茶をいただく。

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▲お干菓子は博多の銘菓「にわかせんぺい」、羽田空港で買える上野動物園に便乗した「パンダクッキー」のどちらかが配られた)


全員が飲み終わったころ、家元(仮)の谷田半休さんによる解説タイムが始まった。
「今みなさんにお使いいただいたのは、給湯流の"激侘び茶碗"です」

ここで会場からドーンと笑いが起こる。
そうだった。粗悪で不完全な品の中に美しさを見出すことこそ、利休の時代から今に続く給湯流の極意なのである。筆者は紙皿をバカにした数分前の自分を恥じた。
その後、谷田さんは紙皿以外にも使われていた何種類かのお茶碗を一つずつ解説。プラスチックのアニメ茶碗や海外旅行のおみやげ茶碗など、明らかにガラクタにしか見えないお茶碗の由来を真剣に説明してくれる様子に、会場は異様な盛り上がりを見せた。

一服が済んだら、後半はミュージカルパート。
まずはビジネスルックの男女3名「給湯流雅楽部」による、パワフルな雅楽の演奏だ。本格的な音色に、和やかだった会場の雰囲気は一転、全員が息を飲んだ。

そこにスーツ姿の狂言師、河田全休さんが登場。
「今日も今日とて一組の男女の見合いを受け持ってござる......」
狂言ならではの迫力ある節回し! 今回の演目「ザッツ結婚相談所」が始まった。
どうやら河田さんの役どころは、現代の結婚相談所の職員ということらしい。恋に悩む男女の出会いをコーディネートする、"ござる口調"の相談役だ。このシュールなミスマッチに、緊張気味だった客席からまたもや大爆笑が起こる。

狂言は室町時代に誕生した伝統芸能。これを給湯流の視点で見ると、中間管理職の人を主人公に、上司と部下のあいだで板挟みになってアタフタするような演目が数多くあるという。加えて、今も昔も変わらない永遠の悩み、男女の恋愛でのいさかいに関する話も多い。
そこで給湯流は、現在社会現象になっている「婚活」を狂言の世界に落とし込んだ。婚活の現場で翻弄されるサラリーマンの姿を描いたのが今回の演目というわけだ。

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▲女性役は詩吟の石橋振休さん。相手の男性役に雅楽部の水谷不定休さん


お見合いの席に二人の男女が訪れるところから、ストーリーが展開する。
二人とも相手の存在などお構いなしに、「年収1,000万円以上」「若くて美人で貞操観念が高い」「親と同居してくれる」「タオルで顔をふかない」など、自分の理想をとにかく言いまくる。(あー、あるある、と頷きながら鑑賞する観客一同)
それを受けた相談員の河田さんが、オロオロしながらもなんとかお見合いがうまくいくようにまとめようとする。しかしワガママはどんどんエスカレートして、最後は河田さんのセリフに笛の演奏と詩吟が重なり、パニックが最高潮になったところで初日が終幕。

続いて2日目の会場になったのは、目黒雅叙園の百段階段。東京都の登録有形文化財として指定を受ける格式高い建物だ。
99 段の階段の合間にいくつもの豪華絢爛な宴会部屋がつくられており、大衆のハレの場として、かつては日々盛大な宴席が設けられていた。これも諸行無常の地である。

夏恒例のイルミネーション「和のあかり」会期中のため、各部屋に優美なライトアップが施されるなか、給湯流がパフォーマンスの場所として選んだのは、階段の踊り場。
集まった30人の参加者は、細長い階段にところ狭しと座布団をしいて座り込んだ。あまりにも狭くて、薄暗い。

「利休がつくった国宝の茶室『待庵』と給湯室は間取りが似ています。だから給湯流は狭い場所が大好物なんです」と家元の半休さんが解説すると、ぎゅう詰めになった階段の踊り場がだんだんありがたい茶室のように思えてくるのは、給湯流マジックの不思議である。

ミュージカルの演目は「結婚式DE天下分け目の大バトル!」。
会場の雅叙園とかけて、物語の舞台は結婚式場。めでたく結婚式が決まった二人が、今度は結婚式の出し物でワガママを言って、式場の職員を困らせるというストーリーだ。

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▲家元による激侘び茶碗の解説に驚嘆する参加者

茶会パートでは意図せずして、亭主と正客(お客さんの代表となる人)との関係性が生まれた。正客が家元に道具に関する質問を投げたり、お茶碗をじっくりと拝見する場面も見られ、本流の茶道さながらのやりとりに会場から何度も笑いが起こった。

「給湯流の見立てとは、現代の視点で日本の文化を見直すこと。それによって、文化を自分ごととして積極的に楽しむことができます」と谷田さんが話す通り、参加者はそれぞれ自由に感想を言ったり笑い合ったり、自然体で茶会を楽しんでいるようだった。
拍手喝采のなか、2日間の茶会公演は幕を閉じた。
(取材・文:小村トリコ)


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